第95号(平成13年12月1日)

皇后様がお孫さんに絹の産衣を

〔財〕大日本蚕糸会蚕糸科学研究所 勝野盛夫

 皇居内の紅葉山という高台に、天窓付き二階屋のご養蚕所があります。明治4年、ときの皇后(昭憲皇太后)が始められたご養蚕は、貞明皇后、香淳皇后そして皇后陛下美智子様へと引き継がれております。皇后陛下美智子様と養蚕については、(財)大日本蚕糸会常務理事佐藤豊氏が“シルクだより No5”に詳しく執筆されており、また今月の月刊誌“暮らしの手帳”にも「皇后様のご養蚕」と題して珍しい写真とともに特集されています。したがって皇室とご養蚕との深いつながりについてはよくご存知の方も多いことと思います。皇后様のお飼いになった繭は、はじめのうちは東京農工大学繊維学部(現工学部)で、昭和29年からは全量(財)大日本蚕糸会蚕糸科学研究所で繰糸し生糸にしてお納めしています。

 蚕品種は、国の品種で最もポピュラーな繭でその時期々々により変わりますが、ここ数年は日137号×支146号と黄繭種の欧16×支16、それと小石丸の3品種で、総量(生)150kg〜200kgになります。7月初めにその年収穫した繭、その繭から作った生糸を供える納めの行事「御養蚕納めの儀」の神事がありますので、それに間に合うように白繭生糸一括、黄繭生糸一括、小石丸生糸そのほか白繭角真綿10束、黄繭角真綿2束をお供え用としてお納めします。ご養蚕所の小石丸生糸が平成6年から始まった正倉院の絹織物復元模造に使われることとなり、約50k(生)を碓氷製糸農業協同組合が生繰生糸にして納めています。そのほかご養蚕所では、天蚕・柞蚕も飼育していますが、数量がすくないので数年間貯めて糸にして納めています。

 7月の始め頃、ご養蚕所の佐藤好祐飼育主任が皇后様から内々のご相談を受けられたとのことで、「蚕糸科学研究所で繰糸した小石丸の糸で今度お生まれになるお孫さんのものを何か作れないだろうか」と話がありました。そこで絹のケープ、肌着、帽子や涎掛けなどの現物を持って宮内庁に参上し、糸量からどのような製品が出来るかなどご相談申し上げました。その後、宮内庁内でご検討された結果、シルクの“産衣”ということになり、生地は軽目羽二重に決まったようです。早速、佐藤飼育主任と共に製織依頼先に生地作りをお願いいたしました。製織に携わった関係者には各工程できめ細かな気配りと誠心誠意取り組んでいただき、すばらしい織物が出来上がり、約60mの軽目羽二重は9月末に宮内庁にお納めになったと伺っております。

 もう近々と思いますが、純白の産衣姿で雅子さまの腕に抱かれた内親王様のお姿が、テレビあるいは雑誌等で見られることでしょう。そのとき、あの産衣は皇后さま自らお飼いになった小石丸繭から出来ている、とご家族あるいは周りの方々にお話し下さい。

 皇后様は平成2年にご養蚕所を引き継がれ、ことのほかご熱心に蚕を飼われ、今や専門家に近い知識や技術をお持ちになられていると伺っています。国内の養蚕が疲幣していることにお心を痛め、日本の養蚕が長きにわたり絶えないこと、また、国内の絹が生活の中にとげ込まれるようにと、関係者とのお話の折々に申されたとお聞きしています。蚕糸絹業に携わる者に大いなる励みとなります。

 産衣(うぶぎ、産着)=嬰児の出産の時に初めて着せる衣服で、なるべく刺激の少ない柔らかい織物を使用する。

 身丈は普通の一ツ身より短く70cmくらいで、半幅の広袖に仕立て、付紐は一本で後ろにとじつけて前で結ぶ。色は一般に白、赤、水色を用いることが多い。

 また宮参り用のきものを称することもある。(きもの用語辞典)


『ブータンの民族衣装展とシルクフェア』を開催して

シルク博物館 学芸員 柴本秋男

 農林水産省など多くの団体の後援を得て、平成13年10月6日から11月4日まで、秋の特別展として『ブータンの民族衣装展とシルクフェア』を開催しました。

 日本ではあまりしられてし、ないブ−タンとは、アジアの東南部インドと中国二つの超大国にはさまれた仏教王国です。日本の九州よりやや大きな面積(46,500I)をゆうし、標高7,000m級のヒマラヤの高山地帯から200mの平地を合せ持つ急峻な国です。この国に生活する人々は、日本人そっくりの容貌で、米や麦を栽培し、自然だけでなく文化的にも我が国と良く似た点が多く見受けられます。その中で特に文化の一つでもある民族衣装を中心に展示し開催しました。

 1989年、これまで長い間、親から子、子から孫へ伝えられてきた民族衣装を、公式の場で着装することを義務づける法律ができました。これは、伝統文化を守り、国としてまとまりを持つことが大きな目的でもありました。

 この着装の仕方は、男性は「ゴー」と呼ばれる袖のある裾の長い幅のたっぷりとした形の衣装を帯でたくし上げて着用します。女性は「キラ」と呼ばれる数枚の布を一つに縫い合わせ身丈を基本とした四角い大きな布を身体に巻き付けて帯と肩の留め具を用いて着ます。

 これらの民族衣装は、野生種の絹や羊毛などが素材となり、特に東部・中央地方を中心に手織りで生産されています。繭糸などの素材は現在インドからの輸入が多くなっていますが、日常着や祭りの時の晴れ着として着るため、数多くの手織り生地が織られています。

 男性の「ゴー」は、日本の着物の直線的な感覚に対し、襟・たもとなどが曲線になっています。女性の「キラ」は巧みに織り上げた小幅の布をデザイン良くつなぎ合わせて広幅の布に作り上げております。来館者は、着物とのちがい、デザインの面白さ・素晴らしさに見入っていました。また、「ゴー」の着方の説明を写真で解説したり、ブータンで実際に使われている機織機や染織道具、おんぶ紐等々多くの染織に関連する品物を展示しました。また、美術工芸品、食器、計量用具など実際の生活用器具なども展示し、ブータンの生活の一端を垣間見ていただきました。さらに写真により、実生活、風俗、仏教寺院などを見て、ブ−タン王国の自然・風俗などの素晴らしさ、美しさを知っていただきました。

 自国の民族衣装に誇りを持ち、愛し守り続けるブータンの織物の魅力をこの特別展を通して堪能していただきました。

 これら展示品は、ブータンに20年以上も通い詰め、収集された山本けいこ氏の努力によるもので頭の下がる思いです。

 ブータンの民族衣装に直接親しむため、実際に「ゴー」や「キラ」を身につける試着コーナーをもうけましたところ、来館者には大変好評でした。講演会として、「ブータンの民族衣装」山本けいこ氏、「ブータンの今」弓削康史氏、「ブータンの開発と国連の役割」弓削昭子氏、会期中3回の講演会を開き、ブータン王国のさらなる理解を深めていただく機会となりました。

 シルクフェアは、32の団体(社)、230点余の新しいシルク製品を展示しました。

 厳しいシルク業界の昨今、試行錯誤で少しでも良い品物を作り出そうとしている業界・団体から選ばれた品物を展示しました。

 柔肌の「あかちゃん」を包み込む「絹の下着」、セラミックスを絹に入れ込んだ遠赤外線の「アンサンブル」、蚕から徹底的に追究して作り上げた素晴らしい織り上がりを見せる「絹地」、幻想的な光りを放つ「ランプシェード」、食べて良し・ぬって良し健康とお肌の守り神「シルクパウダー」、野蚕の代表天蚕の「ネクタイ」、リバイバルでブームになっている多目的に利用できる「ふろしき」、そして「絹和紙」、横浜地場産業である「スカーフ」などの展示と、自然思考と絹の素晴らしさをアピールした展示となり来館者の方々を魅了させてくれました。

 また、東京ふろしき振興会の協力を得て「ふろしきの包み方」の実演を、2回開催しました。会期中、シルク製品の即売会も開き、絹の素晴らしさを訴えると共に、絹の需要増進に力を注ぎました。特に、今回はデパート・大手繊維関係者等の来館もあり、商品取引にもつながり新たな動きが見られました。

 

イベント情報

■第13回まゆクラフトコンテスト作品展■
全国農業協同組合連合会・養蚕婦人部の皆さんが、
繭や羽毛を利用して製作した人形、盆栽、フラワーなどの
コンテスト出品作品の展示会。

・・・ 日 時 ・・・
平成14年1月12日(土)〜同月27日(日)
但し15日(火)・21日(日)は休館日

・・・ 会 場 ・・・
横浜・シルク博物館 横浜市中区山下1番地
    シルクセンタービル

・・・ 主 催 ・・・
全国農業協同組合連合会

・・・ 後 援 ・・・
農林水産省、農畜産業振興事業団、(社)日本真綿協会他

■養蚕技術の移り変わり 第1部■
群馬県内の養蚕技術の発展に大きな影響を与えた
養蚕用器具・機械を展示します。

・・・ 日 時 ・・・
平成14年1月5日(土)〜2月2日(土)
但し火曜日は休館日

・・・ 会 場 ・・・
群馬県立日本絹の里

・・・ 観覧料 ・・・
一般200円 大高校生100円 中学生以下無料

■新春特別行事 『ちりめん細工の箸置き作り』■

・・・ 日 時 ・・・
平成14年1月13日(日) 参加費無料

・・・ お問い合わせ ・・・
群馬県立日本絹の里 
群馬県群馬町金古888-1 
Tel027-360-6300

編集協力:農林水産省畑作振興課、農畜産業振興事業団